近年、ヘルスケア業界を取り巻く環境は大きく変化しています。パンデミックを経験した社会では、健康や医療への関心がかつてないほど高まり、ヘルスケア企業の信頼性や透明性が改めて注目されています。競争の激化や技術革新・医療の個別化が進み、消費者や医療従事者がヘルスケア企業を評価する視点も多様化しており、企業が差別化を図ることがますます必要になっています。
一方で、デジタル社会の進展により、企業イメージがオンラインで拡散されやすい時代となり、ブランド力が信頼や選択に直結する状況が生まれています。このような背景から、ヘルスケア企業が認知・ブランディングに力を入れることは、競争力を維持し、持続可能な成長を実現する上で不可欠です。
最近の報道事例から学ぶ
【記者の心を捉えた企業トップのひと言】
決算発表は、年に一度、企業トップが会見に出席し、自らの考えを表明する機会であり、いわゆる「トップ広報」の好機です。2,000社以上の上場企業が一斉に決算発表を行うため、企業は発表の仕方を工夫する必要があります。一方、報道する側も数多くの発表の中から何を取り上げ、どの企業の発言に注目すべきかを慎重に選ばなければならず、頭を悩ますことになります。
先日、創業以来「雇用重視」の社風で知られるあるメーカーが、黒字決算を維持しながらも、1万人規模の人員削減を決断しました。本来なら人員削減に関する報道は後ろ向きなトーンになりがちですが、取材に応じたメーカーの社長が自らの言葉で心中を語ったことで、否定的なトーンでの報道は少なく、むしろ、業績停滞から脱却する第一歩を踏み出した同社に理解を示す内容となりました。
仮にトップの発言がなく、人員削減の事実を伝えるリリースを発信しただけだとしたら、恐らくこのような記事にはなっていなかったでしょう。トップが率直に心情を吐露し、経営再建にかける熱い思いが記者に伝わった、「信頼と共感のコミュニケーション」が功を奏した事例 1と言えるでしょう。
【ヒューマン・ストーリーが読者の共感を呼ぶ】
企業が社会的に大きな存在になる一方で、企業内部の動きや社員の思いは外部からは見えにくいものです。それを解き明かそうとするのがメディアであり、わかりやすく外部に伝え、社会からの理解と共感を獲得するのが企業広報の役割と言えます。
以前、ある全国紙の経済面に3回のシリーズで掲載された、創業100年を迎えたある食品メーカーの度重なる不祥事による挫折と再生の記録は、失敗から多くを学び、創業の精神にまで立ち返って奮闘する社員の姿が「顔の見えるヒューマン・ストーリー」として、読者の共感を呼んだ事例 2です。
企業の信頼と危機対応への影響
「信頼と共感のコミュニケーション」が破綻すると何が起きるのでしょうか。このことがはっきりと表面化するのが、不祥事を起こした際の企業の対応と、これに対するメディアの反応です。コンプライアンス、人権尊重、ハラスメント防止などに関する企業の取り組みに対して、社会の厳しい目が目けられる中、企業が対応を誤れば、取引先や顧客、株主、そして従業員など多くのステークホルダーに影響が及ぶということを、最近の事例が示しています。また、不祥事を起こした後の企業の広報対応の巧拙が、その企業の評価、印象を大きく左右することも肝に銘じておかなければなりません。
なぜヘルスケア企業が認知度・ブランド力の向上に取り組むべきなのか
ヘルスケア企業がブランド力向上に取り組まなければならない理由、そしてステークホルダーがヘルスケア企業を評価するポイントについてコスモが収集したデータを見てみましょう。
- 優秀な人材の採用
- 求職者の35%が企業知名度を「かなり重要」または「非常に重要」と回答 3し、企業認知度が就職先の選定基準となっていることが明らかになっている。
- 求職者の8割が企業サイトを有力な情報源と認識し、9割がHPのデザインや情報が志望度に影響すると回答 4しており、自社の情報発信がますます重要になっている。
- 企業の信頼性の向上
- 認知度の高い企業は、信頼性や親近感も高くなる傾向にあり、医師においても同様の傾向 5が見られる。
- 売上の向上・ビジネスの拡大
- ステークホルダーの認知が、新たなビジネス機会創出に繋がる。
- 報道によって将来性のある企業であることが認識されることで、企業価値が高まり資金調達にもプラスの影響がある。
以上のように、ヘルスケア企業の認知度・ブランド力の向上は、競争力を維持し、持続可能な成長を実現する上で不可欠であることが分かります。
ステークホルダーの企業評価のポイント
- 製薬業界求職者 6
- 企業の将来性や安定性
- 仕事環境(テレワーク、仕事とプライベートの両立)
- 自己成長/やりたい仕事ができる
- 医師 7
- 製品開発力
- 患者視点に立った経営や患者QOL向上への取り組み
- 情報提供力(医師・患者ともに)
- 患者 8
- 最先端技術を持っている
- 革新的な治療薬を提供している
- 積極的な患者向け情報提供を行っている
- 信頼できる
上記から、共通して重要視されるポイントは「将来性/革新性(開発力)」と「患者視点」であることが導き出されました。
一貫性のある企業のコミュニケーション戦略が成功のカギ
最後に「信頼と共感のコミュニケーション戦略」を成功に導く考え方を整理します。
ヘルスケア企業の認知度・ブランド力の確立には、コミュニケーションメッセージの一貫性・継続性が重要です。コミュニケーションメッセージの一貫性は、「LOGOS(論理)」「PATHOS(感情)」「ETHOS(信頼)」の3要素が相互に作用することで成り立つと言われています。
論理的なメッセージの統一により、企業の理念や価値観、企業の方向性が明確になり、各ステークホルダーは企業の姿勢を理解しやすくなります。ここに、人々の心に響き感情に訴える要素が加わることで、ブランドに親しみを感じ、感情的なつながりを持つようになります。社会貢献の姿勢や患者ストーリーなどは、単なる広告ではなく共感を呼び、長期的な支持となります。さらに、企業ヒストリーや実績事例を伝えることで、事実に基づいた明確な企業像が完成します。これらの論理的なメッセージと感情に訴える要素、事実に基づいた事例が相互に調和すると、企業に対する信頼が築かれます。
一貫性のあるコミュニケーション戦略を、サイクルとして継続していくことで、ステークホルダーに「この企業は誠実であり、信じられる」という印象を与え、企業のブランド価値は強化され、企業の競争力を高める鍵となるのです。
コスモでは、ヘルスケア企業のブランド・コミュニケーションを成功させる「OODAサイクル・メディアプランパッケージ」をご提案しています。
OODA、すなわちObserve(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)を、各企業の実情に合わせ実践的かつ具体的な広報プランにカスタマイズしていくことで、企業のブランド・コミュニケーションを成功に導くお手伝いをしています。
企業ブランディングについてご興味のある方は、こちらからお気軽にお問い合わせください。
■参考文献
1 朝日新聞「1万人削減のパナソニック「社長やめようかと」トップが心情吐露」(2025年5月14日)
2 朝日新聞 経済INSIDE「創業100年、変わらず引き継ぐ「二つの事件」雪印が得た教訓とは」(2025年5月11日)
3 ノーテッド株式会社調査 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000089790.html
4 キャリタス就活調査 https://www.career-tasu.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/07/202307_hpchosa.pdf
5 企業ブランド評価レポート https://www.mixonline.jp/tabid1431.html?acatid=537
6 製薬業界 キャリア意識調査 https://answers.ten-navi.com/pharmanews/20181/
7 日経リサーチ 製薬会社の医療サポートに対する医師の評価調査
8 COSMO Patient Insight Report https://cosmopr.co.jp/ja/library-jp/library-insightreport01-jp/