News

Insights4 Pharma×コスモ・ピーアール共催 オンラインセミナーレポート

患者のライフゴール達成を目指す製薬ビジネスへの変革

~患者インサイト発想を開発からコミュニケーションに応用する~

日本の医療は、「与えられる医療」から「自ら学び選択する医療」へと転換期を迎えようとしています。この潮流は、患者さんによる情報収集や、患者さんと医療者との対話だけでなく、医薬品の研究開発においても日ごとに重要性を帯びてきています。目に見える症状や疾患にアプローチする“エンドロール概念”から、目に見えない患者さんの課題やニーズにアプローチする“ライフゴール概念”への転換期にあると言えるでしょう。このような転換期において、製薬企業は患者インサイト発想をどのように賢く応用できるのでしょうか?
COSMOは、4月27日、製薬業界に特化した海外ニュース&解説メディアのInsights4 Pharmaと共催で、「患者のライフゴール達成を目指す製薬ビジネスへの変革~患者インサイト発想を開発からコミュニケーションに応用する~」をテーマに、オンラインセミナーを開催しました。

冒頭、Insights4 Pharma編集長で海外情報活用コンサルタントの前田静吾氏が、「我々が日々接する情報の基盤となっているNewsが、各種のサーベイ、インタビュー、リリース、学会、論文などから、電子データやレセプトデータなどのリアルワールドデータ、さらにはブログ、SNS、患者グループなどのソーシャルメディアに至るまで多様化し、増大しており、カオスの様相を呈しているように見えるが、製薬業界は、患者さんが望み、ビジネスとしても有効な薬を開発し、患者さんに届けるために、情報会社やコンサルタントを利用し、これらの情報を的確に活用して最大のアウトカムを出さなければならない」とコメント、「本日のセミナーを是非参考にしていただきたい」と挨拶しました。

この後、COSMOの茅島由香シニアアカウントディレクターが「患者インサイト発想への転換」、トランサージュ(株)の瀧口慎太郎代表取締役が「SNSビッグデータからの患者インサイト分析と戦略構築への応用」と題して、それぞれ講演を行いました。

以下、講演骨子をご紹介します。(文中の敬称は省略させていただきました)

講演1「患者インサイト発想への転換」

COSMO シニア アカウントディレクター 茅島 由香
まず始めに、私たちは患者インサイトを「患者さんとの持続可能な関係性の構築を目指して、患者さんの心理の中に隠れたニーズや思考を探り当てることであり、受診や治療の動機、効果的な情報提供やコミュニケーション、サービスを考察すること」と定義しています。患者インサイトの理解は、患者さんの真の満足が何かを知り、それを達成したいと願う患者さんの意思決定のメカニズムを応用することで、患者さんの主体的な意識と行動の変容を可能にします。つまり、疾患の早期発見、重症化の防止、アドヒアランス(服薬遵守)の向上、ヘルスケアアウトカムの向上が患者インサイト追求の大きな成果なのです。

部署横断、一気通貫で患者インサイトの活用を
一般的な消費財・サービスは、例えば「便利なものが欲しい」「おいしいものが食べたい」など消費者個人の好意や欲求が根底にあります。それに対して、医療サービスの場合は、患者になりたいと望んで患者になった人はおらず、受け入れがたい現実と本人すら明確に認識していない願望や希望、価値観など、認識と感情の不協和音が大きく渦を巻いていることが少なくありません。そのため、患者インサイトの把握と正しい解釈が難しくなります。もう一つの困難は、患者さんの根本的な欲求は「元の自分に戻りたい(=治癒)」だということです。このような状況においては、患者さんの感じるリスクや誤解、医療サービス提供者との認識の違いが生じやすく、それだけに患者さんへの分かりやすい情報提供、適切な期待値コントロールによる理解と信頼構築が欠かせません
最近は、「患者インサイト」が一般的なワードになり、製薬企業ではPatient Centricity同様に基本概念として浸透しつつある状況ですが、患者インサイトを組織全体の資産として運用し、川上から川下、そして患者さんに至るまで、部署を横断し一気通貫で活用するという点ではまだまだ大きな成果を期待できるものが多くあると思います。

COSMOの「患者インサイトレポート」から学んだこと
ここからは、具体的に患者インサイトについてご紹介したいと思います。
当社では昨年から今年にかけて、患者インサイトレポート-がん疾患編」「同-婦人科がん編」という二つのレポート(*)を発行させていただきました。これは全国のがん患者さん300人を対象に当社が独自に実施したアンケート調査の結果をまとめたもので、この中で、がん治療に対するがん患者さんの意識を調査しました。がん種は罹患者数が多い、上位10種から選びました。このレポートから改めて認識させられたことは、「“がん患者”と一括りにしたペルソナは一切存在しない」ということでした。がん種やプロファイル、治療フェーズに応じて、患者さんのインサイトはバラバラで、治療に対する意識も様々でした。
例えば、治療選択への態度について聞いたところ、「複数の選択肢の中から、自分が納得できる治療方法を選択したい」と回答した比率は全がん種平均で47.7%でしたが、がん種別にみると最大が76.7%、最小が33.3%と、大きな開きを見せました。治療についての検索行動についても、「調べた情報を参考にして治療を選択した」との回答が平均51.6%、最大84.6%、最低33.3%でした。情報ソースについても、婦人科がん患者さんは患者自身が発信する、患者だけが直面する体験の情報を重視している傾向が顕著でした。
また、私たちの日頃の感覚と異なる結果がでた項目もありました。例えば、治療についての検索内容を聞いたところ、「効果/薬の効き目」との回答が全がん種平均で3.5%だったのに対し、「副作用」との回答が19.7%ありました。副作用を気にする患者さんが薬の効果を検索する患者さんの実に6倍ということは発見でした。
処方薬選定における意識については、「薬の価格を気にする」との回答が平均で46%、意外だったのは「薬剤メーカーの評判を調べる」との回答が平均で23%もあったことです。

(*)COSMO発行の「患者インサイトレポート」がん疾患編、婦人科がん編の詳細、購入希望はこちらから

患者インサイトから自身のアンコンシャス・バイアスに気づく
私自身、がん患者さん以外にもいろいろな疾患に関わらせていただく中で、患者さんやご家族に対して、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)を持ってしまっていると気づく経験がいくつもありました。例えば、血友病の患者さんの場合は、病状によって異なりますが、自己注射で日常生活を過ごしている患者さんは、周囲の人に自分は病気だと思われたくない、自分は普通の人と同じようにチャレンジできるし成果も上げられることを示したいという想いが強く、病気であることを会社にも同僚にも明かさない(明かせない)、とにかく「患者」とラベリングされることを避けたいという態度でした。私たちは「○○患者さん向け」という看板を立てて多様なコミュニケーションを発信するわけですが、「血友病患者向け」と看板が立った場所から距離を置こうとしている患者さんにはリーチできない状況も考えられます。

患者インサイトを理解し、アウトプットの増幅を
各種の手法を駆使して、患者インサイトを適切に理解すれば、アウトプットの可能性は増幅します。例えば、先ほどご紹介した「患者インサイトレポート」では、がん患者さんのインサイト調査分析を行った結果、「治療法について調べる」と答えた患者さんの割合が80%あったのですが、結局28.2%の患者さんは「調べたがよく理解できずに、医師の勧めに従った」と答えていました。この割合を少なくすることがレバレッジポイントであり、患者さんに対して適正な情報提供を行うことができれば、患者さんが納得して治療を選択し、治療満足度の向上につながり、さらにその先には継続して治療を受けるという良い循環が生まれてきます。そこで当社では患者コミュニケーションの最初の一歩として、「寛解」、「予後」など一般の方には認知率の低い言葉を避け、患者さんに理解しやすい情報提供を行うことを徹底しています。また、当社は患者さんの治療の意思決定を支援するShared Decision Makingに関連するサービスも展開しておりますが、最近お問い合わせが非常に増えている領域です。
もう一つ、がん患者さんのインサイト調査分析で注目されたのは、「処方された治療薬の製薬会社の評判を調べる」と回答した患者さんの割合が23%、「製薬会社の不祥事があった際に、自身の処方薬のメーカーを確認する」と回答した患者さんの割合が36%あったことです。この点は、コミュニケーションとしてやりがいのある分野であり、平時からの継続的な企業レピュテーション構築とメッセージ発信が重要であることを我々は提言しています。

患者インサイトを理解する手法は多様にあり、目的や患者環境によって最適な方法をご提案しています。本日は、新しい手法として最近注目されている「SNS発話解析」について、トランサージュの瀧口さんからご紹介いただきます。トランサージュさんは、当社がジョイントチームを組んで一連のコミュニケーションサービスを展開しているパートナー会社の一つです。
(参考文献:杉本ゆかり 『患者インサイトを探る』 千倉書房 2020年)

講演2「SNSビッグデータからの患者インサイト分析と戦略構築への応用」

トランサージュ(株)代表取締役 瀧口慎太郎
本日は当社が製薬企業向けにご提供する各種ソリューションのうち、SNSのビッグデータから、テーマを設定して患者さんやご家族の投稿を抽出し、患者インサイトを分析するPatient Readerという、新時代の顧客理解のためのソーシャルリサーチのメソッドをご紹介します。

ソーシャルリサーチのメソッド、Patient Reader®とは?
Patient Readerが生まれた背景には、不安定(Volatility)、不確実(Uncertainty)、複雑(Complexity)、曖昧(Ambiguity)の頭文字を取った「VUCA」という、先の見通せない時代が到来しているということがあります。これまでは演繹法や帰納法というLogical Thinkingという思考法によって戦略立案が行われてきましたが、VUCAの時代の思考法として注目されているのが、Patient Readerで用いられているDesign Thinkingというアプローチです。これは仮説を立てて、それを市場調査などで検証するというやり方ではなく、アブダクション、即ち仮説を構築するところから始めようという思考法です。Design Thinkingには5つのステップがありますが、中でも最も重要とされるのが、最初の「共感」というフェーズで、ユーザーに対する共感をいかに深められるかが、本日のセミナーの主題である、患者インサイトの発想を色々な分野に活かすことにつながるのではないかと思います。共感に当たっては、全体的な視点、ランドスケープ的な俯瞰が大事であり、できるだけ多くの情報を俯瞰して、発散して、課題定義していくことが、まさに患者さん志向の戦略構築あるいは開発進展につながるのではないかと思います。

患者さんの認知と行動を俯瞰し、インサイトを掘り起こし
アンケートやインタビューなど従来の調査が【仮説検証型】だったのに対して、Patient Readerは【仮説発見型】で、母集団の大きさは、従来の調査が最大の調査パネルでも250万に対し、Patient Readerが活用しているソーシャルメディアのパネルは、ID数にすると2億と圧倒的に大きいのが特徴です。また、従来の調査が設問を予め設定するのに対して、Patient Readerは設問を設定しませんので、聞き手などのバイアスが入らず、投稿者の経験をそのまま俯瞰することができます。さらに、Patient Readerでは、投稿者自身の気ままな発話からリアルなインサイトを把握することができます。このように、Patient Readerは、ソーシャルメディアの登場により可能となったリサーチ方法であり、患者さんのリアルワールドボイスを分析することによって従来は確認不可能だった患者さんのありのままの認知と行動を俯瞰し、インサイトの掘り起こしを可能にしました。
Patient Readerの分析プロセスを簡単にご紹介しますと、まずはPatient Readerを利用するお客様の目的や課題、製薬企業であれば対象疾患や製品、競合状況などの「ヒヤリング」からスタートします。これに基づいて、疾患や診療の現状をリサーチし、キーワードを設定して、次の「投稿仮抽出」、「データ抽出」のステップに進みます。この段階で仮抽出される投稿数は、数十万から数百万の単位で出てくることもあります。この中から、ゴシップネタや重複する投稿など不要なデータを排除し、NLP(自然言語解析処理)などのテクノロジーを用いて「データクレンジング」のステップに進みます。これで、最終的に約1,000程度の投稿に絞り込み、「アナリストによる投稿分析」というステップを経て、レポートが作成されます。この間、1カ月半から2カ月を要します。

Patient Readerの分析事例
Patient Readerを用いた投稿分析の事例として、難治性の希少免疫疾患の患者さんのアンメットニーズを把握することで、戦略力点の修正を行った事例をご紹介します。このケースでは、当初の課題設定の段階では、「症状が起きていても、病院へ行くべきかどうか、患者さん自身で判断できない」、あるいは「病院へ行こうと決心しても、どの病院、どの診療科に行けばよいかわからない」―など、発症から情報検索というフェーズにおいて、患者さん側の初動に関する課題が大きいのではないかと考えられていました。ところが、投稿分析してみると、「病院に行っても医師がどの病気か診断をせず、何度も転院を繰り返し、治療を開始できない」、「時には主治医が匙を投げるくらい、医師自身、最適な治療が分からない」など、患者さんの苦しみが切々と語られていました。このことから、課題は、受診/診断、治療のフェーズにあることが確認でき、戦略の力点を、「診察可能施設の明確化と疾患の認知」に修正し、「早期診断治療が行われ、専門医間で疾患認知が共有される」という解決策を提示できました。このほかにもPatient Readerは、製品戦略力点の確認/ポジションニングやプロモーションプランの立案、医師とのディスカッション・テーマの設定などにも活用されています。

SNSの時代だからこそ実施可能となったソーシャルリサーチの手法であるPatient Readerは、今までの市場調査とは質的にも量的にも明らかに違う観察ができる、俯瞰ができるツールですので、皆様にも是非活用していただきたいと思います。

(注)Patient Readerは、トランサージュ株式会社の登録商標です。Patient Readerに関するお問い合わせは、こちらまで。

最大のアウトカムを出すために
本セミナーを通じて患者インサイトの重要な役割として以下のポイントが明らかになっています。製薬業界での活用を期待します。

患者インサイトの主要な役割
■患者インサイト追求は疾患の早期発見、重症化の防止、アドヒアランス(服薬遵守)の向上、ヘルスケアアウトカムの向上につながる
■患者インサイトを適切に理解すれば、患者さんに対して適正な情報提供を行うことができるため、患者さんが納得して治療を選択し、治療満足度の向上につながり、さらにその先には継続して治療を受けるという良い循環が生まれる
■Patient Readerは、新時代の顧客理解のためのソーシャルリサーチのメソッドで、SNSのビッグデータから、テーマを設定して患者さんやご家族の投稿を抽出し、患者インサイトを分析する
■Patient Readerは、患者さんのリアルワールドボイスを分析することによって従来は確認不可能だった患者さんのありのままの認知と行動を俯瞰し、インサイトの掘り起こしを可能にする

以上

岩下裕司Insights4 Pharma×コスモ・ピーアール共催 オンラインセミナーレポート