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患者中心の医薬品開発に向けた道筋とは?

患者中心の医薬品開発への道筋

Patient engagementからPublic engagementへ~

日本の医療は「与えられる医療」から「自ら学び選択する医療」へと、転換期を迎えようとしています。この潮流は患者による情報収集や、患者と医療者との対話だけでなく、医薬品の研究開発においても、日ごとに重要性を帯びてきています。これまで接点の薄かった医薬品の研究者と、患者や市民の間で、コラボレーションが求められるのはなぜでしょうか?それはどうすれば実現できるのでしょうか?研究者と患者が共に学びあう場づくりに創造的にチャレンジする今村先生にお話を伺いました。

一般社団法人 医療開発基盤研究所 代表理事
東京大学大学院薬学系研究科 ITヘルスケア社会連携講座 特任教授

今村 恭子 先生

 


医療に関する患者·市民参画(PPI:
Patient and Public Involvement)の機運が高まっています。患者中心の医薬品開発とは、どういうことでしょうか?

今まで医薬品といえば、誰かが作ってくれるのを患者は待つしかなかったわけですが、これからは自分たちの欲しい薬が作られるように患者や市民、研究開発者、みんなで頑張ろうということです。例えば歩けなくなる病気に効く薬を作る場合、歩けるようになることだけがその薬の価値かというと、そう単純な話でもない。患者さんの話をよく聞けば、「歩けないだけじゃなくて、腕を動かすのも大変なの」といったことがあるわけですが、これまで患者の訴えは家族かせいぜい主治医で留まって、研究者に届いてこなかった。でも足の症状は改善しなくても、腕がかなり動く薬ができるとしたら、患者や家族にとって大きな価値ですよね。だから私たち開発する側から言えば患者さんが何に困っているかをもっと聞きたいし、市民の方に知っていただきたい開発の事情もいろいろあります。薬を開発する側も患者の側も、お互いを知って歩み寄っていかないと、患者さんの困っていることに応えるよい薬はできないということで、医薬品開発における患者や市民の参画について様々な議論や実践が始まっています。

疾患によって、患者参画が盛んな領域というものがあるのでしょうか?

アルツハイマー型認知症に代表されるような中枢神経疾患や、難病·希少疾患といわれる領域で特に盛んです。症状が多様で、患者さんでないとなかなかわからないところがあるんですよね。たとえば高血圧とかコレステロール関係の病気なんかだと動物モデルで実験ができるのですが、神経や筋肉、精神などでは実験が難しく、症状が数値化されてないケースが多い。では国際的にデータを集めようと言っても、基準や収集方法がばらばらだったりするので、高血圧の薬を作るのとはだいぶ違った難しさがあります。

 

日本でも、患者さんを巻き込んだ医薬品開発は進んでいるのでしょうか?

いいえ。欧米と日本の医薬品開発を比べると、日本では患者さんや市民の巻き込み方が相当遅れています。日本は保険医療行政がきっちりしていて、患者さんが声高に主張しなくても一定の医療にアクセスできる非常に恵まれた国ですが、こと患者さんの課題解決の決め手となるような新薬を作っていくプロセスに関しては、欧米に追い付くのは大変です。医薬品開発は科学技術ですので、進めていくうえで一番大事なのはデータです。患者さんの意見も大事なデータなのですよ。患者さんが自分のニーズをしっかり訴え、その声がうまくデータとして定量化され、集約されないと、製薬企業や医療機器メーカーの開発計画には反映されません。国際的な医薬品開発競争において、日本の市場規模は限られますから、相応のアピールをしないと、日本の患者さんのニーズを踏まえた薬は生まれにくくなります。逆に、患者さんの数は少なくても、団結して質の高いデータを挙げていければ、この国から世界に向けて発信できることもありえます。自己主張を苦手とする我々日本人も、ここはひとつ頑張らなきゃいけないところじゃないかなと思うわけです。

 

患者さんだけでなく市民の参画が重視されるのはなぜですか?

病気やけがをしない人はいないので、患者さんと市民の間に線引きはありません。また、健康と病気についても同じことで、間に線を引くのもなかなか難しいです。患者さんの意見を医薬品開発に反映させるには、患者さんの周囲の一般市民の理解、関心も重要です。また昨今は薬の開発にかつてよりお金も時間もかかるようになり、社会的な資源配分の議論が避けられません。病気を治すためには社会資源が必要とされ、それをどう市民社会が賄うかという議論がついて回るので、患者さんだけでなく、一般市民にも議論に入ってきてほしいところです。広く世間一般の人に関心を持ってもらいたいのですが、健康な方に当事者意識を持っていただくことは非常に難しいですね。まずは家族や近所など身近に病で苦しむ人を見てどうしたらいいのか悩んでいる方から巻き込んでいけたらと思っています。

 

それで今村先生は多様な立場の方を集めた学びの場を運営されていらっしゃるのですね。

はい。私は当初製薬企業に勤務する医師向けに勉強会を開催していたのですが、社内で開発のプロセスに関わる医師が増える中で徐々に間口が広がっていき、ヨーロッパで患者や市民参画を志す団体のEUPATIの方や日本の関係者ともつながってきました。この春、日本でも一般社団法人ピー·ピー·アイ·ジャパンが設立されて、日本を代表する研究者や患者会が中心となり、EUPATIの優れたツールを日本に導入しようという取組みから始まって、日本におけるPPI(Patient and Public Involvement)を推進されています。私も自分のフィールドである東大の社会連携講座や、先日設立した医療開発基盤研究所での取り組みで得たインサイトからピー・ピー・アイ・ジャパンに貢献し、日本の私たちに合った患者中心の医薬品開発に向けて治療開発を皆で一緒に形作っていければと思っています。

 

日本で医療における患者参画、市民参画を実現するためのポイントは何でしょうか?

医薬品開発だけに限りませんが、現場で課題解決の糸口を見いだし対応するリーダーシップを育てるところが肝だと思っています。ちょっとしたグループ発表なんかでも、皆の話を聞き取って担当を割り振ってまとめをプレゼンする、といったリーダーとしての立ち回りができる方がいますよね。様々な領域でリーダー役を担う方々と経験や議論を共有することによって、一緒に成長していけるような場を作りたいと思っています。それがやがてはステークホルダー(利害関係者)として無視できない声を上げていき、日本の医療を患者にとってより良いものへと変える、社会の基盤づくりにつながると思うからです。
そのためにはまず知識は力なり、ですので、医薬品開発について入り口から出口まで一通り体系的に学習できるメニューを準備しました。

 

(出典:医薬品開発基盤研究所 https://ji4pe.tokyo/introduction.html#expert

 

来月10月から、患者向けと、産業界·研究者向けに、医薬品開発を入り口から出口まで一通り体系的に学べる3つのコースを開始します。体系的なプログラムにしたのは、ある部分だけに知識や関心が偏ると議論も偏ってしまうので、自分の専門外のことも補って早くバランスの取れた視野を持てるようにするためです。教育シラバスは公開していますので、関心のあるところから受講し、また来期に追加でその周辺を受講するなど、自分の関心に沿ってどんどん使い倒していただきたいですね。
オンライン講座ですので、全国どちらからでもご参加いただけます。患者さんはもちろん、少しでも患者さんや医療に触れる機会のある方をはじめ、一緒に学びあおうとする方ならどなたでも、お待ちしています。

 


今村先生、患者参画という概念や国内の動向など、わかりやすく教えて頂き、どうも有難うございました。
COSMOも、患者さんの声が関係者から広く一般へと届くよう、何ができるか考えてまいります。
ニュースレターの読者の皆様も、先生のお話しや学習プログラムについてお知り合いに広めて頂ければ幸いです。

(取材:日埜励子, 2020年9月10日)

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