慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者参画
-患者中心医療実現の最前線で活躍するチェンジ・メーカーとのインタビュー-
リンネル氏は、2005年、50歳の時にCOPDと診断され、現在では米国内および国際的に数多くの患者活動の役割を担う。
US COPD Coalition、Emphysema Foundation for our Right to Survive (EFFORTS)、およびCOPD FoundationのPatient Powered Research Networkの理事会で委員を務め、米国国防省のPeer Reviewed Medical Research Programでは患者査読者として数年間活躍。ジョンズ・ホプキンズ大学医学部のPatient-Centered Outcomes Research Instituteが資金提供をしている研究”Impact of a Peer Support Program Amongst COPD Patients and Their Caregivers”にも参画。研究結果は、医学雑誌に掲載予定。
EyeforPharma Patient Summitでリンネル氏は、氏が数年にわたってかかわってきたアストラゼネカ社によるCOPD患者対象のPatient Partnership Programについて発表した。リンネル氏にCOPDの患者参画活動とその活動の日本人患者にとっての示唆についてお聞きした。
Q:何をきっかけに、また、どのようにして患者中心医療の推進活動に深くかかわることになられたか、これまでのご自身の疾患と活動の経緯について教えて頂けますでしょうか。
初めてCOPDと診断されたのは2005年です。病状が進行するにつれ、仕事ができなくなり、仕事を辞めて障害者手当を申請せざるを得ない状況になりました。初めての経験であり、一連のプロセスをどう進めればいいか全く分かりませんでした。
障害者手当をどのように申請すればいいのか。手当が支給されるまでどれくらい待つことになるのか。収入がない中、生活費をどのように支払えばいいのか。今後はどこで治療を受けることになるのか。高額の吸入薬の費用をどう工面するか。
当時、疑問やその他の心配事でも頭がいっぱいになりました。これらのことが書かれた本やマニュアルはなかったので、インターネットで調べることにしました。
結果、製薬会社各社が患者支援プログラムを提供していることを知りました。そして、私に合う治療を対象としている臨床試験を探し、参加することで他の患者さんにも貢献できることが分かりました。
また、情報収集しているうちに、「Better Breathers」というAmerican Lung Associationが支援しているピアサポートグループ(患者同士が支援し合うグループ)を見つけました。そこでは、月1回、数名のCOPD患者が集まり、COPDがもたらす日々の生活への様々な影響について、ゲストスピーカーの話を聞くことができました。全てのCOPD患者さんもそうだと思いますが、私にとっても、他のCOPD患者さんと交流ができることはとても大切でした。同じ病気をかかえる人とふれあうことで、いわば絆が生まれます。
このグループを通じて、全国的なキャンペーンとして実施している「COPDアンバサダー」にならないかとお誘いを受けました。COPDアンバサダーは、多くの製薬会社の営業関係者を対象に、患者代表として自分の体験を語って共有します。
就労はしていませんでしたが、何もしない日々を過ごしたくもなかったので、この役割にはとてもやりがいを感じました。一つ一つの活動が他の新しい活動につながっていきました。フェイスブック上のいくつかのCOPDグループのファシリテーションに携わるようになりました。また、COPD Foundationの活動にもかかわるようになり、それがきっかけでジョンズ・ホプキンズ大学の研究医からのお声がけで、COPD患者さんが「Breathe Buddies」という患者さんメンターと交流すると、どのような影響を及ぼすかを検証するプロジェクトの共同患者研究者になりました。
これらの活動の一環として、時折各種委員会に対してスピーカーとしてお話をしたり、メンバーの一員として参加することもありました。こういったことがきっかけで理事会に加わるようにもなりました。人前で話すのは苦手ではないので、啓発活動を行い患者さんの声をお届けできるのを楽しく感じています。
これらの活動を通じて、各種会議に参加するため、様々な都市を訪問しました。様々な都市で、他の患者さんをサポートしたり、各種理事会、委員会、プロジェクトで患者の声を代弁し、患者活動にかかわることできるのは、旅行好きの私にとっては自分自身のためにもなっています。
幅広い啓発活動、早期診断の促進、研究への資金提供の拡大、「患者がかかわっていなければ、患者中心とは言えない」というメッセージ発信などの一翼を担えることに対してとても恵まれていると感じ、やりがいも感じています。
Q:患者団体としての活動の実施は、特定のタイプの患者リーダーに偏る場合があります。他のCOPD患者さんも参画するよう、どのように勇気づけ、促進していますか?
COPD患者さんからよく言われるのは、「あなたのように深く関与したいとは思うけど、人前で話すのが苦手」や「遠方まで旅行できなくなった」というような内容です。しかし、そのような方でも、患者活動に加わって他のCOPD患者をサポートし、呼吸器疾患患者のコミュニティ全体を支援することができると思っています。
私が提案するかかわり方は、
- ヘルスケア関連のイベントで、啓発のための各種資料を配布するスタッフを手伝うこと
- 議員が特定の法案を支持するよう、電話または文面で働きかける
- 誰かに話しを聞いてもらいたい患者さん向けに設けられたホットラインの電話対応を手伝う
- フェースブックやその他SNS上のグループの運営を担当する
- COPDの研究を発展させる臨床試験に参加する
- 製薬会社または患者視点を求めている企業が運営している患者諮問委員会にオンライン/オフラインで参加する
私たち患者には、全員何か貢献できることがあり、それぞれの方法で寄与すればいいと考えています。私は、たまたまとても社交的で大勢の前で話すことに抵抗がありません。しかし、自宅からあまり遠く離れるのが心配であったり、公衆の場で活動するには自分の知識やスキルが足りないと感じる人もいます。お伝えした方法以外にもあらゆる形で全ての人が参画し、COPD患者コミュニティの主要メンバーの一人として活動できます。我々は、どんなに物理的に離れていても、全員COPDと付き合っているという共通項でつながっている真のコミュニティなのです。
Q:製薬会社とかかわりの中で、最も大きな学びまたは一番印象的なエピソードについて教えて下さい。
私はなぜ製薬会社とかかわるのかと聞かれることがあります。患者さんによっては製薬会社に対して不信感をもっている方が(少なくてもアメリカでは)いらっしゃるということを十分理解しています。
製薬会社も患者さんも最終的には同じものを追求しているのだと考えています。製薬会社と協働することで関係を強化できると同時に、我々が求めていることや必要としていることを製薬会社側に伝えることもできます。
初めて製薬会社とかかわったのは、6年前に某製薬会社にお話をさせて頂いた時です。当時は、私自身のCOPD体験をお伝えしただけでした。しかし、より深くかかわるにつれ、製薬会社と患者さんが協働することで、次のことを含め、様々な点において寄与できることに気づきました。
- コミュニケーションの改善
- 研究のサポート
- パッケージ・デザインのレビュー
- 製品情報概要のレビュー
- 添付文書や説明事項を評価し、我々のように理系出身でない方も理解できるようにする
製薬企業各社は「患者中心志向」になりたいと考えています。私は、毎年何回か「患者中心医療」をテーマとする会議に出席していますが、これらの会議には製薬業界から様々な経営陣が出席しています。各社がいかに患者さんの声に耳を傾け、真剣に参考にしたいと思っているかを裏付けていると思います。製薬会社のそのような姿勢に対してとてもポジティブに感じており、今以上に活動・参画したいという思いにさせられます。
我々は、全員で協働し、勢いを持続させなければいけません。最近出席した会議で、「勢いは一過性なものになりがちだ」という発言がありました。要するに、何か新しいことに対して最初は盛り上がるが、その勢いが衰えるとすぐに重要視されなくなることを指摘しています。勢いを持続させ、我々全員のために製薬会社が貢献し続けてもらえるよう自ら働きかけることを自分の役割だと考えています!
Q:日本のCOPD患者さんに対して、是非コメントを下さい。
日本の状況については私自身知識不足ですが、COPD患者さんに対するコメントをお願いされるのは嬉しいことですね!!
日本の文化はあまり対立を好まない傾向があると聞いています。しかし、そのような環境であっても、我々は患者としてどのように製薬会社、製薬業界、医療従事者、政府に変化して欲しいか、または少なくとも我々のニーズを検討して欲しいかについて意見を提示できると思っています。現状を非難することなく、変化の必要性について語ることはできると思います。変化は、コミュニケーションや相互理解の中から生まれるものですが、患者自身以上にCOPD患者について理解している人はいません。製薬企業各社は、我々をどのようにサポートできるのか、真剣に知りたいと考えています。我々自身のために、企業側と話し、協働すべきです。COPDは、我々自身の課題であり、我々が毎日付き合いっているものです。機会が与えられた時は、その機会を逃すことなく、議論に参加することが重要と思っています。
日本、米国、ヨーロッパで患者さんを取り巻く環境は大きく異なるかもしれません。しかし、患者さん同士は双方から多くのことを学べると信じています。アジアと欧米の間で連携や意見交換をすれば、世界のCOPD患者さん全体の理解がより前向きに深まるとも思います。
製薬企業各社には、是非このような活動の実現に向けて、委員会を設けて頂きたい。もし日本で会議を開催することになりましたら、サポートをしてくれる妻と一緒に是非参加したいと思います。他者の見解から学ぶこと、そして自分の考えを共有することは、私にとっての喜びです。