新型コロナウイルス感染症の拡大が止まりません。東京などの大都市地域を中心に、集会やイベントの中止、不要不急の外出自粛が要請され、企業に対しては在宅勤務やテレワークなどが推奨されています。「コロナ危機」とも呼ばれるこのような状況の中で、我が国における企業広報のあり方にも変革が起きつつあるようです。また、危機の中にあっても、社会から高い「評判」を獲得する企業の条件が最新の調査レポートから明らかになりつつあり、「ポスト・コロナ」を見据えた企業のあり方、コミュニケーション戦略、さらにリスクマネジメントを考える際に、多くの示唆を与えてくれています。
1.進む広報手法の変革
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、新商品・新技術の発表会や説明会など、企業によるオンサイトでのメディア・イベントが次々と延期や中止の事態に追い込まれています。メディアにとっても、フェース・トゥ・フェースの取材機会が減少する一方で、在宅での取材や編集作業を余儀なくされるケースも見られます。そこで、代替手段として一躍注目を集めているのが、ウェブを活用した広報手法です。
もっとも、ウェブの活用は海外では既に幅広く採用されている広報手法であり、記者説明会といえば、基本はウェブがベースとなっています。日本では一部の先行的な業種・企業を除けば、いまだに従来型のオンサイトでのイベントが主流で、世界でもユニークな市場だとみなされてきました。理由はいくつか考えられますが、メディアとの人間関係を構築することが伝統的に企業広報の重点の一つとされてきたことや、主要なメディアも企業の広報機能も、ほとんどが東京に集中しており、敢えてウェブを活用するメリットが双方に感じられなかったこと―などが挙げられるでしょう。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、状況は一変しました。多くの企業がウェブを活用した広報手法に挑戦せざるを得なくなったのです。
① ウェブを活用したメディアセミナー(ウェブセミナー、ウェビナー)
ウェブセミナーには、大きく分けてリアルタイム配信と録画配信の二つの方式が用いられています。このうちリアルタイム配信は、ウェブ会議システムなどの仕組みを活用し、配信時間を決めてリアルタイムに配信することで、セミナーに臨場感を持たせることができ、チャットのツールなどを活用して、参加者からの質問や意見をリアルタイムに受け付けて質疑応答を行うなど、双方向でのコミュニケーションを図ることが可能です。一方、録画配信は予め録画しておいた配信データを、告知した日時に配信する方法で、スライドなどの視覚効果の高いものを予め編集しておくことができるので、充実したコンテンツ内容を準備できるというメリットがあります。
先日、弊社でもウェブ上だけでのメディアセミナーをリアルタイム配信で開催したところ、ターゲットとしていたメディアの参加希望数、実際の参加率、提供したコンテンツのクオリティーのいずれもが、通常のセミナーとそん色なく、メディアからも、「このような機会は非常に有難い」とのコメントをいただくなど、ウェブセミナーに対するメディアの需要は、我々の想像以上に高いということを実感することができました。
② インタビューもメディアトレーニングもウェブで
ウェブを活用したインタビューは既に多くの企業が実施中で、通常の対面インタビューと変わらず対応できており、記者からも非常に好評を博しています。また、通常はワン・オン・ワンで行われるスポークスパーソンに対するメディアトレーニングも、「レクチャー→模擬インタビュー→ビデオ映像を用いた診断・アドバイス」と一連の課程全てをウェブ上で実施することが可能となっており、実績を重ねつつあります。また、企業トップに対しては、ウェブを活用した記者会見などを想定して、通常のスピーチトレーニングに加え、画面を通してどう見られるかという、スピーチビヘイビアの訓練も登場しています。
このように、これまで日本で定着してこなかったウェブを活用した広報手法が、「コロナ危機」を契機に、一気に広がりを見せ始めています。これが一時的なもので終わるのか、今後のトレンドとなるのか、現時点で断言はできませんが、メディア側の期待とも相まって、少なくとも企業の広報手法の一つに組み込まれていくことは間違いありません。ウェブの活用が活発になれば、セミナーの資料や画像・映像データをメディアに提供するための「プレスルーム」の拡充やウェブ会議システムのセキュリティーをいかに確保するかなど、新たな課題に対応することも必要になってくるでしょう。ウェブの活用をお考えの皆さん、まずは小規模のトライアルから始めてみてはいかがでしょうか。
専門的なアドバイスやお手伝いが必要な方は、弊社のサービス内容を是非ご覧ください。
2.コロナ危機の中でも、
高いレピュテーションを獲得する企業
-評価の指標は、「レジリエンス」(変化に対する適応能力)-
「ピンチはチャンス」という言葉がありますが、コロナ危機に直面する企業のレピュテーションに関しても、同様のことが言えそうです。弊社のグローバルパートナーであるW2O社(米、カリフォルニア)が本年3月、3年間にわたり世界240社のレピュテーションを、独自の指標に基づいてトラッキング調査した結果を明らかにしましたが、その中で、「レジリエンス(変化に対する適応能力)の高い企業は、新型コロナウイルスの感染拡大というリスクにさらされながらも、メディアやステークホルダーから称賛され、高いレピュテーションを獲得している」として、感染症拡大に対応した各社の具体的な事例を紹介していました。
以下に示したのは、その要約です。
① 一般企業の事例
『迅速で果断な意思決定、人を大事にし、確実に社会に貢献する』
・アマゾン=10万人を新規に雇用。ネット通販でのマスクや消毒液などの価格つり上げを厳しく監視。新型コロナウイルスに感染した従業員、隔離された従業員に対して2週間分の給与を支給。地元(シアトル)の小規模事業者を支援するため、500万ドルの基金を立ち上げ。
・デルタ=3月分の全てのエアチケットについて変更手数料をいち早く免除。
・エンタープライズ(レンタカー)=学校が閉鎖となった学生の帰省をサポートするため、レンタカーの貸出制限年齢を引き下げ、若者割増料金を免除。
・LUSH(手作り化粧品)=買い物客以外にも手洗いのため店内を開放。感染防止のため手洗いを推奨する教育的な画像をネットに投稿。
・ZOOM(TV会議システム)=米、伊、日の3カ国で、高校生以下の学童・生徒に対して無償でビデオ会議システムを提供すると発表。
② ヘルスケア企業の事例
『課題に打ち克つため、同業他社、行政や政策立案者、NGOなどとも協働』
・ロッシュ=従来に比べ10分の1の時間でコロナウイルスを検出可能な検査機を開発し、米国に向け週40万セット出荷すると発表。
・ノバルティス=2千万ドルのグローバル基金を立ち上げ、影響を受けているコミュニティーを支援。ビル&ミリンダ・ゲイツ財団との共同研究を発表。主要薬剤の価格について安定的に維持することを約束。
・ジョンソン&ジョンソン=治療薬開発で米国保健福祉省と提携。イスラエルのメディカルセンターとも治療薬開発でコラボレーション。
・Sanofi社(仏)=感染患者へのリウマチ治療薬の試験投与を発表。ワクチン開発で米国保健福祉省と提携。
・ファイザー=ワクチンや治療薬開発のスピードアップを図るため、自社の開発ツールや所見などを公開。治療機器量産のため、製造能力を他企業と共有。他社とのワクチン共同開発を発表。
③ 失敗事例
米国の某食料品スーパーマーケット・チェーンのCEOは、従業員に対して「お互いの有給休暇を分かち合い、疾病休暇の寄付ポリシーを活用すべき」と発言し、従業員からも社会からも反発が起こり、メディアもネガティブにカバー。また、「従業員が第一」との発言で名声を得ていた英国の某航空会社の創立者の一人が、8,500人の従業員に対して、8週間の無給休暇を取るよう要請したことに従業員が敵意を持って反発。議会からも、「いつも言っていることと違う。自らが所有する島の一つを売って従業員への支払いに充てるべきだ」との批判が浴びせられることとなった。
これらの事例はいずれも、危機の時においても、企業はコトバだけでなく、実際の行動を伴う真摯な対応が評価されるということを示唆しています。
W2O社のレポートは企業が取り組むべきことは、「あらゆるステークホルダーが企業に期待すること、望むこと、企業について(SNS上で)話していることに、常に注意を払い、自らの専門性や成長戦略との乖離がみられれば、そのギャップを埋める努力をすることである」とし、ステークホルダーとのレレバント(適切)な関係を保つことが企業のレピュテーション獲得に欠かせないと指摘しています。詳細はリンク先を参照ください。
以上、「コロナ危機」が企業の広報にもたらしたものをテーマにみてきましたが、この「コロナ危機」を乗り越えた先にある「ポスト・コロナ」の時代、世界はどのような変化を見せるのでしょうか?私たちの暮らしや、経済社会のあり方、ビジネスモデルは大きく変化するのでしょうか?分散化・分権化によるリスク対応力の強化、オフィスに依存しない勤務形態の拡大はどこまで進むのでしょうか?そして企業広報のあるべき姿とは?本稿で取り上げた「ウェブの活用」「企業のレジリエンス(環境に適応する力)」という二つのキーワードが、それらを読み解く鍵の一つとなってくれれば幸いです。
このニュースレターは、ネット上で公開された各企業の広報対応や専門家による論評記事、メディアへのヒアリング情報などを基にCOSMOの責任において意見を取りまとめたものです。 W2Oに関するテキストは、COSMOが英語のオリジナルを翻訳および編集したものであり、オリジナルはサイトで閲覧可能です。