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COSMOオンラインセミナー 「今ある薬を使えるようにするために」開催のご報告

―「奇跡」を起こし、「軌跡」に変える―

日本初の「患者提案型・医師主導による治験」を共に考える

 

「今ある薬を使えるようにするために」と題するオンラインセミナーがCOSMOヘルスケアの主催で7月9日開催されました。このセミナーには進行肺がん治療薬の適応拡大のための治験をめざして協業を続けてきた肺がん患者、NPO法人、医療機関の代表者が出席、事前に登録申し込みのあった患者さんとそのご家族、一般市民、報道関係者など350人を超える皆さんが、我が国初の「患者提案型・医師主導による治験」の目的や意義、今後の課題についてインターネットを通して熱心に耳を傾け、理解を深めていました。

数万人の肺がん患者「置き去り」がきっかけに

講演1「治験の背景と経緯」で登壇したのは、自らが2010年に肺がんを発病、2015年にNPO法人肺がん患者の会ワンステップを設立し理事長に就任、現在日本肺がん患者連絡会の理事長も務める長谷川一男さんでした。長谷川さんによると、もともと肺がんの2次治療薬として使われていたオシメルチニブの適応が2018年夏に拡大され、肺がん患者であれば誰でも1次治療から使用可能となったことが、我が国初の患者提案型治験が実現するきっかけとなりました。と言うのも、適応拡大後も既に2次治療またはそれ以降の治療を受けていた患者の中には、適応拡大前と同様、オシメルチニブの使用が認められない患者が存在することになったからです。長谷川さんは「数万人いる肺がん患者が、効果があるかもしれない薬を試すことさえできずに『置き去り』にされた」と感じたと言います。そこで長谷川さんは、患者自らの手で臨床試験を行うことを思い立ち、ある市民公開講座で同席した認定特定NPO法人・西日本がん研究機構理事長で、近畿大学医学部主任教授の中川和彦先生に、「患者会がお金を集めたら、治験をやってもらえるのですか」と、直接問いかけたと言うのです。そこからは、まさに奇跡的な出会いが重なり、2年越しで今回の治験実現にこぎつけた訳ですが、長谷川さんは、この治験を“KISEKI trial”と名付けました。「患者さん、その家族、医療者、製薬企業が様々な壁を乗り越えて治験の実現という奇跡を起こした。その奇跡をそのままで終わらせず、道を残して誰もが通れる軌跡に変えていきたいとの思いが込められている」と長谷川さんは言います。長谷川さんは、セミナー参加者に向かって「この治験の存在、治験の情報を、必要な人に届けて欲しい」と訴えていました。

 

患者さんの声に動かされ二人三脚で

続く講演2では、長谷川さんの講演を引き継ぐ形で中川和彦先生が登壇し、「患者提案型・医師主導治験の意義」と題して講演を行いました。中川先生は、初めに臨床試験の定義や分類を説明し、「治験には製薬企業が承認申請のために行う製薬企業主導治験、医師が未承認薬を用いて行う医師主導治験がある。いずれも製薬企業が資金提供を行うことが多く、通常は製薬企業の企業戦略(スコープ)に合わせて医師側が治験のアイデアを提案することになるため、そこに患者さんの声が反映されることはなく、治療開発において患者さんは孤立する傾向にある」と指摘しました。そんな中で長谷川さんが発した患者さんの声に動かされた中川先生は、2019年3月に製薬企業であるアストラゼネカ社に治験要望書を提出します。その後、患者さんと医師との二人三脚によって製薬企業のグローバル本社を動かし、アストラゼネカ社が治験に要する資金の全額を提供することとなり、今年5月、治験届を当局に提出するに至りました。中川先生は、「患者提案型・医師主導治験という新しい枠組みの治験が我が国で初めて実現したことは、製薬企業、研究者ともにとって”Patient first”に立ち返って考える良い機会になったのではないか」と講演を結びました。

 

本年8月中の治験開始目指す

講演3で登壇した近畿大学医学部内科学講座腫瘍内科部門 ゲノム医療センターの武田真幸先生は、「治験の詳細と意義」と題して、臨床上の課題、治験の目的など、専門的な立場からの解説を行いました。その中で武田先生は、治験ではコーホート1、コーホート2の2つの集団合わせて70例の患者の登録を目標にしていること、薬剤が搬入される本年8月中の治験開始を目指していることを明らかにしました。さらに武田先生は、治験実施施設として、全国各地の15の病院が用意されていることを紹介、「本治験に対するがん患者の皆さんの適格性については、主治医を介して、近隣の実施施設に是非ご連絡いただきたい」と、肺がん患者の皆さんの協力を呼びかけました。

 

奇跡を軌跡に変えたい

その後行われた、スピーカーの皆さん3人によるトークセッションでも、「患者の会のホームページには、治験に参加できる適格基準など患者さんが知りたい情報が掲載されているので是非見て欲しい」(長谷川さん)、「治験のことを多くの人に知ってもらうことが大事だ。主治医に対して、治験があることを伝え、適格者は是非治験に参加してほしい」(武田先生)、「良い治療薬が開発され、長期生存するがん患者さんが増えていることで、患者さんのアドボカシーが成熟してきている。自分達は何をしなければならないのかという患者さんの意識の活性化が我々医師の力にもなっている」(中川先生)など、それぞれ「この奇跡を、みんなの力で軌跡に変えていこう」という熱い想いが語られました。

 

 

「ヘルスケア・コミュニケーション領域におけるコンサルティングサービスを通じて、患者さん、一般市民の誰もが健やかに過ごせる社会の実現をめざす」というCOSMOの願いをアクションに変えたい-との想いで開催させていただきました今回のオンラインセミナーは、お陰様で多くのご参加をいただき、盛況のうちに終了することが出来ました。我が国初の「患者提案型・医師主導による治験」について理解を深める貴重な機会をご提供いただきました講師の皆様はじめ全ての関係の皆様に厚くお礼申し上げます。

COSMOといたしましては、KISEKI trialが成功し、我が国においても患者さんの声が新薬の開発や適応の拡大にもっと活かされるような「軌跡」となって、今後も続いていくことを切に願っております。

 

<お知らせ>

本セミナーを記録した動画配信を行っています。

その① 「はじまり ~背景と経緯~」
https://youtu.be/wI5hED36z5E

その②「患者提案型医師主導治験の意義」
https://youtu.be/gSmRa_5xzmo

その③ 「治験の詳細と課題」
https://youtu.be/16IprgYaID4

※Q&Aは7月22日(水)にアップ予定です。

講演資料のダウンロードも可能です。ご希望の方は、こちらまでアクセスしてください(ダウンロード期限7月27日まで)。


*このニュースレターは、「COSMOオンラインセミナー」でのスピーカーの皆様の講演内容を基にCOSMOの責任において編集したものです。

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