Patient Empowermentや患者さんの医療への参画が注目されていますが、とりわけ先進的だと言われているのがHIV/AIDS領域です。コスモは、前号に引き続きHIV対策の最前線で活躍されている特定非営利活動法人aktaの岩橋恒太理事長に、aktaの起源や活動の特徴、そして継続的に先進的な活動を展開続けているaktaの成功要因についてお話を伺いました。(HIVについて日本や世界の状況について伺った前号はこちら)
特定非営利活動法人akta
岩橋 恒太 理事長
1.aktaとは
ゲイコミュニティの中で健康問題を可視化する
私たちaktaのスタートは、2003年に、東京都新宿区新宿2丁目にコミュニティセンターを設立したことから始まります。厚生労働省からの事業として始まり、現在もそのまま運営されています。aktaの開館時間は16:00~22:00まで。スタッフは常勤3人と非常勤が9人。このほかに、登録ボランティアが132人います。
新宿2丁目は、ゲイバーやクラブ等約400軒の商業施設が密集するアジア最大の性的少数者の集う街で、性的少数者が自分のセクシュアリティをオープンにできる「居場所」でありコミュニティでもあります。日本におけるHIV感染が男性間の性的接触(MSM)による感染に集中していることに対応すべく、その対策拠点の一つとして新宿2丁目に設置されたのがaktaです。
設置から18年間、aktaは新宿2丁目で働く人々、新宿2丁目に集まる人々、行政や専門機関などと連携関係を築きながら、当事者性を重視した、HIV感染予防のプロジェクトを実施してきました。 その一つが、毎週金曜日に、新宿2丁目の約170店舗に、コンドームとHIV感染予防・支援に関する資材等を届けるアウトリーチ・コミュニケーション活動です。ボランティアのスタッフがお揃いのユニフォームで街に出て活動することで、街の人々から注目され、HIVの問題や性感染症が街の中の課題になっていることを可視化するという効果もあります。
aktaの活動の特徴は、ゲイコミュニティと連携すると同時に、HIVに関連する諸機関と連携し、両者の間を橋渡しして相互のコミュニケーションの基点となる、いわばハブの役割を果たしている点です。連携する諸機関としてはNGO、検査施設、研究機関、行政機関、医療機関、教育機関、関連機関などがあります。ゲイコミュニティとしては、クラブ、サークル、ゲイバー、性風俗店、ショップなどがあります。専門機関から得た情報をaktaがパッケージ化して、ゲイコミュニティに配布します。その際に、コミュニティの受け止めや、彼らの間で何が流行っているのか、彼らがどのような問題に直面しているのかなどをaktaのスタッフが吸い上げ、それを専門機関にフィードバックするのです。
2.先進的な活動
厚生労働省研究班と取り組んだ“HIVcheck”キット
aktaが取り組んだ活動の一つに“HIVcheck”というHIVの検査を郵送で行うプロジェクトがありました。厚生労働省研究班でのトライアルの活動ですが、検査に使うキットをスタッフが手渡しで配布し、受検者は自己採血キットを使って指先から採取した血液をろ紙にしみこませ、検体を国立国際医療研究センター内のACC(エイズ治療・研究開発センター)内の検査ラボに送付、スクリーニング結果を専用ウェブサイトで確認するというものでした。昨年の1月まで1年半かけて行った活動では、キットの総配布数2,087件、そのうち検査実施件数1,741件(実施率82%)、スクリーニングでの陽性判明件数45件(陽性率3.83%)、そのうち、医療に結び付いたことが確認できた件数が22件(48.9%)という結果でした。陽性率3.83%というのは、通常の保健所での陽性割合の実に8倍に相当する高さで、改めて、コミュニティセンターを活用して検査機会を提供することの大切さを認識させられました。最も苦労したのは、スクリーニング検査を受けた後の確認検査、そして治療にいかにして安全に結び付けるか、つなげていくかという点で、これについては民間のクリニックやエイズ診療の拠点病院、東京都の協力を得ることができました。
コミュニティ、若者、アート、行政研究機関を結ぶakta
今振り返ってみると、aktaを立ち上げ、ここまで活動実績を重ねてくることができた要因としては、4つのパワーがあったおかげだと考えています。HIV対策にはコミュニティベースの活動が大事であるということを、本気で信じてくれた研究者が日本にいてくれたのは幸いでした。また、若いゲイの皆さんが、何か面白そうなことをやっているというので、ボランティアとして集まってきてくれたことも大きな要因です。また、アーティストやデザイナーの皆さんが、HIV啓発に想いをもって、安くても、あるいは無償でも協力したいと参画してくれたのも、大きな力になっています。物事を発信するにあたりアートの力の大きさはいつも実感しています。そして2丁目のコミュニティの皆さんが活動に賛同してくれて、お店を経営する傍ら、HIV啓発活動に協力してくれ、いろいろなアイデアを出してくれたのも大きな要因だと思います。すなわち、①コミュニティの参画、②若者の参画、③アートの力、④公衆衛生研究者の関与やHIV陽性者、他のNPO、行政等との協働関係―の4つと考えています。
コミュニティにアプローチすることで実績を重ねる
UNAIDS(国連合同エイズ計画)が2020年までのHIV対策の目標として提唱した「3つの90」【注】は、世界的に達成できませんでしたが、我が国の場合、2017年時点で見ても、3つのうち2つの目標(HIV陽性者が抗レトロウイルス治療を受ける割合、治療により体内のウイルス量を検出限界以下に抑えられている人の割合)は90を超えており、最初の90(HIV陽性者が自らの感染を知る割合)についても85%程度までは達成できているとの報告が出ています。残りの5ポイントを押し上げていくために、今までのアプローチで届かなかった人にどうアプローチしていくのか。社会的に残された課題として取り組んでいく必要があるでしょう。UNAIDSが新たに設定した2025年目標【注】の中でも、「人を中心にすえたアプローチが大事」だということが、改めて強調されました。aktaはこれからも、新宿2丁目というコミュニティの中のHIV対策拠点として、コミュニティに向けての活動を続けていきたいと思います。
【注】UNAIDSの「2020年目標」、「2025年目標」については、3月22日発行のCOSMO NEWSも合わせてご参照ください。
(取材:COSMO Healthcare 2021年2月25日)