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企業のrelevanceを考える

―「ウイズ・コロナ」「ポスト・コロナ」時代の
コミュニケーション戦略-

1.パラダイム・シフトは起きるのか? 

新型コロナウイルスによる感染爆発の第一波がようやくピークを過ぎ、主要国では徐々にロックダウンが解除され、「ウイルスと共存する日常」が始まろうとしています。我が国においても全国に発令されていた緊急事態宣言が、5月14日、39県において解除されました。この間、感染拡大防止の観点から、多くの活動が自粛要請の対象となり、制限を受けることとなりましたが、私たちの生活や企業活動、教育、さらには政治のあり方に至るまで、コロナ後、劇的な変化(パラダイム・シフト)が起きるのではないか」と見る専門家もいます。確かに、キャッシュレス化、ネット通販、テレワーク、ペーパーレス、オンライン授業、オンライン診療などなど、これまでも導入、普及の必要性が叫ばれていながら、遅々として進まなかった変革が、コロナ危機を契機に我が国においても一気に進展する予兆のようなものを感じられるようになりました。

 

2.生活者や消費者とのコミュニケーション、オンラインで

コロナ危機に対応した企業の動きを人々はどのように評価しているのでしょうか?

我が国においても、企業は在宅勤務の推奨など感染防止策を徹底すると同時に、持てる経営資源を提供し、医療従事者への支援、外出を自粛し自宅にとどまる人たちに向けた情報やサービスの提供など、それぞれが工夫を凝らした社会貢献、地域貢献の活動を展開しており、メディアやSNSでも好意的に捉えた報道を目にするようになりました。また、「接触を避ける」という点に着目し、TwitterやYouTube、Facebook、Instagramなどを有効に活用して、家族で楽しめるぬり絵コンテンツの公開、自宅で出来るワークアウト動画のライブ配信、コーヒーの淹れ方伝授、一流レストランのレシピ公開など、生活者や顧客とのオンラインコミュニケーションを図る企業の事例なども注目を集めています。(事例の詳細はリンク先を参照ください

 

3.注目されるW2O社の最新レポート

弊社のグローバル・パートナーであり、データ分析とデジタル手法を駆使することでヘルスケア分野におけるマーケティング・コミュニケーションをリードするW2O社(米、カリフォルニア州)が最近公表したレポートでは、同社が独自に開発した「relevanceモデル」を用いて、新型コロナウイルス禍にある米国主要企業のrelevanceランキングを更新、「ウイズ・コロナ」「ポスト・コロナ」の時代における企業のマーケティング・コミュニケーション戦略を考える上で、貴重な示唆を多く提供してくれています。

以下、改めてW2O社の「relevanceモデル」の概要と最新レポートの一部を要約してご紹介します。

 

4.企業のrelevanceとは

Relevanceという言葉は、「関連性」などと翻訳され、マーケティングでは一般的に「企業のブランドに対して、消費者が自分との結びつきや関連性を感じること」などと解釈されているようですが、W2Oではrelevanceを「データ重視(data-driven)で、社会や文化のトレンドに素早く順応し、経営を行うこと」と定義付けています。そして、「企業のrelevanceを高めるためには、企業の専門性(能力、組織、成長戦略)と、あらゆるステークホルダーが企業に求めるもの、期待するものを明らかにし、両社のギャップを埋める(いわば双方の円が重なり合う部分を大きくする)努力が求められる」としています。

W2Oでは3年前から、企業を取り巻くあらゆるステークホルダーが何に関心を示しているのか、メディアの記事、ツイッター、フェースブックなどSNSから発信される情報などをモニターし、これに対して各企業がいかに対応しているのかを指標化することで240社のrelevanceの度合いをトラッキングしてきました。2019年の結果を見てみると、ヘルスケア企業140社中、relevanceが「strong」と評価された企業はわずか6%でした。Fortune100社の中でも、「strong」と評価されたのはわずかに8%、最上位の「resilient」と評価された企業は実に1%に過ぎませんでした。ヘルスケア業界の場合、各ステークホルダー、ヘルスケア・メディアが関心を示すテーマは、健康保険システムからマリファナ、メンタルヘルスと、どれも議論を呼ぶテーマが多く、その中で、自社を差別化し、肯定的に捉えてもらうということが、いかにチャレンジングなことであるのかを物語っています

 

5.「新型コロナ危機」で社会の関心は一変

本年1月以降、新型コロナウイルスの世界的な感染爆発で、米国における人々の関心は、トランプ大統領や予備選という他のテーマを圧倒的に引き離し、新型コロナウイルス関連に集中しました。そして、このコロナ危機とも呼ばれる状況の中にあっても、relevance のランキングを上げる企業、下げる企業が見られ、企業の行動を社会の関心、期待に適合させていくことの重要性が改めて確認されました。(「コスモ・ニュースレター」4号ではrelevanceランキング上位企業の具体的な事例を紹介しています。詳細はリンク先を参照ください

そこで、W2Oでは、各企業がパンデミックの対応において、いかにキー・ステークホルダーとの良好な関係を維持しているのかを、より正確に評価するため、従来の「relevanceモデル」を刷新し、relevanceの高い企業・組織の最新の特徴を分析しました。

その中で明らかになった最も興味深い結果は、「relevanceの高い企業は、緊張状態を作り出している対立する課題を、正反対のものと捉えるのではなく、両者のバランスをとることが重要であると認識している」という点でした。さらに具体的にみてみましょう。

 

6.重要なのは、対立する課題のバランスをとること

ー「OR」思考から「AND」思考へ切り替えをー

▽「連邦」対「地域」
Relevanceの高い組織は、国家・州・市のレベルの対立要素を把握し、それぞれに対応した活動によってもたらされる結果の相違を分析し、社員を巻き込んで議論しています。

▽「公衆衛生」対「経済」
Relevanceの高い組織は、公衆衛生、経済、市民の自由という相対立する利益について理解しており、コロナ禍における業務再開と雇用保護に関する指針を明らかにしています。

▽「社会貢献」対「ビジネスの長期的サステナビリティ―」
Relevanceの高い組織は、長期的視点から企業の持続可能性を見据え、社会貢献の一環として商品やサービスを無料もしくは大幅に値引きして提供しており、こうした努力を鳴り物入りの宣伝をすることなく行っています。

▽「新たなマーケティング」
Relevanceの高い組織は、ステークホルダーに対して継続的に共感し、支援する姿勢を取り続け、売り込みの姿勢を封印しています。その一方で、「消費者は新型コロナウイルス関連以外のマーケティングを拒んでいる訳ではない」ということを理解している企業もあります。

▽「ニュー・ノーマル」対「ネクスト・ノーマル」
Relevanceの高い組織は、コロナ禍以降のrelevance維持をにらんでいます。

 

7.コロナ禍でもrelevanceを向上させた企業

W2Oの最新レポートでは、本年1月から4月末までの間に測定した企業のrelevanceランキングも公表しており、ランキングが大きく上下動した企業についての考察がなされています。それでは、コロナ危機の中で企業のどのような行動がrelevanceに影響を与えたのでしょうか?

<relevanceを向上させたヘルスケア企業のケース>

Boston Scientific
医師を支援するため、ミネソタ大学が開発した低コストの人工呼吸器の製造を開始する予定で、これに対してFDA(米食品医薬品局)が技術の緊急使用許可を付与しました。ブルームバーグやボストン・グローブなどの大手メディアによるニュースカバレッジを獲得し、同社のrelevanceスコアは5%上昇、ランキングは13位からベスト10入りし7位となりました。

VERTEX
同社の「のう胞性線維症治療」を90日間に亘って無料で緊急提供することを申し出ました。また、グローバルで500万カナダドルの寄付を発表。うち5万カナダドルはフードバンク・カナダに提供されました。VERTEXのrelevanceスコアは13%上昇、ランキングも57位から20位にアップしました。

CRISPRE
同社の遺伝子編集技術を使い、新型コロナウイルスの検査を40分で完了させる技術を公表しました。また、鎌状赤血球症患者用マスクのためのファンドを支援しました。ウイルス検査に関して多くのニュースカバレッジを獲得し、relevanceスコアは実に90%も上昇しました。

 

<relevanceを向上させたFortune100企業のケース>

Disney
Disneyは自宅で過ごす人々に向け、ABC.com上で“Family Singalong”というエンターテインメント・プログラムを公開。全米で200以上のフードバンクのネットワークをもつNPOであるFeeding Americaへの寄金も呼びかけました。このエンターテインメント・プログラムを1,300万人が視聴、Disneyのrelevanceスコアは2週間で51%上昇、ランキングも4月10日時点から一気に85上がって7位となり、初めてトップ10入りを果たしました。

Google & Apple
両社は、新型コロナウイルス感染者に接触した可能性のある人のスマートフォンにアラートを発信する技術を開発するため提携すると発表、プライバシー保護の観点から懸念を表明する専門家もいましたが、膨大なメディア・カバレッジを獲得し、Googleのrelevanceスコアは25%、Appleのrelevanceスコアは46%上昇、ランキングはそれぞれ6位、4位を維持しています。

 

8.コロナ危機で得られた教訓を忘れずに

W2Oの最新レポートでは、最後に「人々の関心が、コロナ関連のニュースから離れつつある今、コロナ危機の中で得られた企業のrelevanceに関する教訓を忘れてはいけない」とし、これからも次の7項目に留意することが重要だと指摘しています。

  •  共感力こそが鍵
  •  行動は言葉よりも雄弁
  •  コロナ対策戦略は全てのステークホルダーを考慮し、長期的展望に立つべし
  •  透明性の確保は選択肢ではなく必須事項
  •  協働がイノベーションを加速
  •  機敏性の有無は死活問題
  •  安定は当然のこととして期待されている

 

以上、W2Oの最新レポートを通して、米国における企業のrelevanceについてみてきましたが、「ウイズ・コロナ」「ポスト・コロナ」の時代、次の危機に備えた企業のコミュニケーションのあり方を考える際のヒントが含まれていたのではないでしょうか。詳細はリンク先を参照ください。

同社の「relevanceモデル」を用いた企業分析、評価、ランク付けは米国において展開され、多くのクライアントから高い評価を得ています。今後は、日本においても、日本の企業・組織に合わせた「relevanceモデル」が開発され、米国と同様のサービスが提供されるようになることが期待されます。


*このニュースレターは、ネット上で公開された各企業の広報事例や専門家による評論記事などを基にCOSMOの責任において見解をとりまとめたものです。W2Oに関するテキストはCOSMOが英語のオリジナルを翻訳および編集したものであり、オリジナルはサイトで閲覧可能です。

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