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日本における女性の健康
~フェムテックがウィメンズヘルスに果たす役割を考える~

今回のニュースレターでは、女性の健やかな毎日に貢献するフェムテックに関し、特に以下に着目してお届けします。

  • 女性の健康にまつわる活発な意見交換の奨励
  • 当分野の専門家の知見
  • 日本における革新的なソリューション
  • 女性の健康を促進する様々な成果
  • 今後の展望

「地域社会の強さは、そこに住む女性の健康いかんです」-ミシェル・オバマ氏(※1)がみごとに言い表しています。女性の心身の健康は地域社会と密接にかかわる、社会の真価を測るバロメーターとも言えるでしょう。

株式会社コスモ・ピーアール(以下、COSMO)の代表取締役社長である佐藤玖美は、「ウィメンズヘルスは、もっと注力されるべき分野であり、改善の余地が多く残されています。女性が早期診断と適切な治療を受けるために、この分野における診断薬と医療機器の進歩はますます重要になっていくでしょう」と述べています。

女性の健康を守るために必要なこと

COSMOは、ヘルスケア分野で数々の実績を誇る戦略的コミュニケーション企業として、これまで一貫して患者さんのニーズや課題の理解に努めて参りました。今回は、特に日本における女性の健康ニーズと、それを満たすべく躍進を続ける数々の取り組みについてご紹介します。

まずはじめに、女性のウェルネスサービスの市場参入サービスとマーケットを提供するfermata社のグローバル・ビジネス・マネージャー、Lia Camargo氏にお話を伺いました。Camargo氏はこう述べています。「日本では、フェムテック産業への官民の関心の高まりもあり、各ジェンダーに特化した健康ニーズについての議論がより頻繁に行われつつあります。これらが、新たな革新的ツールに関する議論にとどまらず、避妊具へのアクセス向上や、性的暴行の被害者ケアの改善など、日本における女性のヘルスケアに関して長年先送りされてきた課題に関する議論につながることを期待しています」


fermata社 グローバル・ビジネス・マネージャー Lia Camargo氏

次に、日本における女性の健康ニーズに応えるために、現在どのような取り組みが行われているのかについて、非営利団体Healthtech Women Japanの代表である竹之下千尋氏にお話を伺いました。「これまで社会の中で埋もれてしまった女性の声に耳を傾け、ヘルスケアにまつわる議論に取り上げ、国際社会に共有することが私たちの使命です。AI、VR/AR(仮想現実・拡張現実)、IoTなど幅広いテーマを選定してヘルステック・セミナーを開催しています。数年前には、女性の健康がテーマのセミナーを開催し、これまで公に話題にしにくかった女性特有の悩みを女性参加者が議論して下さいました。私たちのコミュニティを最大限に活用する良い機会だったのではないかと思います」


Healthtech Women Japan創設者・代表 竹之下千尋氏

昨今では、新型コロナウイルス感染症による社会変化の影響が、世界中の女性の健康に及んでいます。例えば米国では、パンデミックに関連した保健対策として、患者さんが不要不急の受診を控えた結果、マンモグラフィーの検診率が80%(※2)も減少しました。日本対がん協会の調査によると、2020年には日本の自治体主催のマンモグラフィー検診率も30%(※3)減少したことが明らかになっています。

女性は別の意味合いでもパンデミックのあおりを受けました。ステイホーム状態で、在宅勤務時の子供の面倒や教育など、女性の心身には特に重い負担がのしかかりました。2020年に実施された日本の男女別自殺に関するある調査研究によると、2020年の7月、8月、9月における女性の自殺死亡者数は前年より20~30%多い結果となり、パンデミックを要因とした自殺リスクの高まりに関していえば、男性よりも女性への影響が高かったとされています。(※4)

新たな潮流:日本におけるフェムテック

Ida Tin氏が命名した「フェムテック」(※5)とは、女性の健康と幸福の支援に特化して開発された技術のことを言います。当初は女性のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康と権利)をモニタリングするための技術やアプリを指していましたが、その後、がん、不妊、更年期、母体の健康をはじめとする、実に様々な女性のアンメット・メディカルニーズに対応する製品・サービスを含む言葉として広がっています。

Camargo氏は、「日本ではこの2年間で、『フェムテック』という言葉が以前にも増して頻繁に使われるようになりました」と指摘。

さらに「(生理用ナプキンや尿漏れパッドを併用しなくても使える快適な)吸水ショーツや月経カップは、全国的に普及しつつある商品です。生理のケアに関して、今までは不便や不快な思いをしても『しょうがない』と諦めてきたことについて、改めてそれでいいのかどうか疑ってみるきっかけとなりました」と続けます。

Camargo氏によれば、フェムテックのソリューション とは、「例えば、妊活カップや、生体電気インピーダンスという技術を使った妊活トラッキング・デバイスなど、具体的に手に取れる商品やアプリを指すこともあれば、医療機関で提供されるサービスのことも指します」とのこと。「fermata社は日本だけでなくアジア全域で、このような製品へのアクセス向上とイノベーションに向けた活動をしています。特に医療機関、厚生労働省、東京大学などの研究機関、小売店など、業界を超えたステークホルダーと強力なパートナーシップを結べているのは幸運なことです」とCamargo氏は言います。

また、竹之下氏は次のように説明します。「数年前の市場の傾向としては、不妊治療や月経管理、セクシュアル・ヘルスなど、カテゴリに特化したサービス、もしくは必要とする多くの女性にとって手が届かないサービスもありました。今は、より包括的なウィメンズ・ヘルス・サービスに市場全体がシフトし、M&Aや資金調達によってそのサービスは拡大しています。例えば、ウィメンズヘルス専門のワンストップ診療を対面・バーチャルで提供するTia Clinicは1億3,200万ドルを調達しました。また、不妊治療と家族形成のための対面およびバーチャルなサービスを提供するKindbodyはVios Fertilityを買収して11億5,000万ドルのユニコーン・ステータスを獲得しました。(※6) この傾向は、より低コストで質の高い女性向け医療へのアクセスを高めることにつながります」

日本でも同様に、フェムテックのサービス充実が進んでおり、fermata社はその中心的存在です。 2022年4月にfermata社は、シリーズAにおいて、日本最大級の総合商社である伊藤忠商事をはじめとする大手投資家から2億1,000万円の資金調達を行ったと発表しました。また、三越、伊勢丹、パルコなどの小売業とのパートナーシップを拡大し、小売スペースを認知度向上拠点に転換し、女性の健康に対する消費者の意識、アクセス、インクルージョンを後押しする試験的な「医療モール」など、革新的な取り組みも行っています。

女性の健康向上

日本における政府主導の各種取り組みと、実際の女性の健康への成果とのギャップを、フェムテックがどのように橋渡して貢献しているかについて、Camargo氏に伺いました。「日本の不妊治療についても、フェムテック企業が新風を巻き起こすことが可能と考えています。政府は2020年に不妊治療への助成金を増額することを発表し、少子化対策に取り組んでいます。(※7) イスラエルや米国で生まれた不妊治療の技術革新により、体外受精の成功率が向上し、また、不妊症の方々のホリスティックなケア(特に心のケア)への関心も高まっています。こうしたツールやサービスが日本で普及すれば、民間企業が得意とする技術革新とサービス向上で、政府主導の取り組みを効率的かつ効果的にバックアップすることが可能だと思います」

知恵、技術、志と資金をつなぐ

女性がより多くの革新的な健康ソリューションを利用できる未来を描くにあたり、投資家や政治家にアプローチすることも重要です。Camargo氏は次のように続けます。「あらゆる技術革新や新たな産業について言えることですが、そこには真のニーズがあり、成長機会もあるということをまず明確に示さなくてはなりません。フェムテック産業の可能性を統計的に裏付ける報告書も増えてきており、米国のFemTech Focus社のCEOであるBrittany Barreto, Ph.D,が、「2027年のフェムテックの世界市場規模が1兆ドル以上に達する」と推定する『FemTech Landscape』レポートを発表しています。(※8)このような統計的な数字は、日本におけるフェムテック産業の持続的成長を可能にする資源を有し、この産業にコミットする使命と責任を負う人々に訴えかけるにあたり、必須のエビデンスと言えます」

ネクストステップは、連携

竹之下氏は次のように述べています。「次のステップとして、多くの起業家や企業の最新の技術を応用した女性のためのヘルスケア・ソリューションの創出が期待されます。例えば、月経管理を望む女性が生理周期を把握してピルを入手しやすくしたり、不妊治療中の女性が排卵のタイミングを把握したり、出産した女性が遠隔医療で必要な情報を得ることが可能になるでしょう」

より多くの日本の女性にそのようなヘルスケア・ソリューションを届けるために、ヘルスケア業界、デジタルヘルス企業、そして各コミュニティが今後どのように連携していくのかについて、竹之下氏はさらに次のように語っています。「多くのスタートアップ企業やデジタルヘルス企業は安全性に関し適切なエビデンスを提示しなくてはなりません。そのため、女性向けの最新ヘルスケア・ソリューションの提供において、ヘルスケア企業や学術界との連携が不可欠です。米国市場における企業連携の一例として、一部のヘルスケア企業はフェムテックのスタートアップ企業を買収してサービスを拡大しています」

フェムテックの未来

COSMOは、みんなで力を合わせれば、以下のように女性の健康向上が進むと信じています。

  • 友人、家族、同僚など仲間内で対話を続ける
  • 女性の健康問題をテーマとするするセミナーなどを通じ、自ら積極的に学ぶ
  • フェムテック分野のオピニオンリーダーの姿勢に学ぶ
  • 身近な女性が健康ニーズや悩みをオープンに相談できる空気を作り、傾聴する
  • このようなテーマの記事やブログをシェアし、広く伝える

私たちが力を合わせれば、一歩ずつ世界を変えることができます。女性の健康ニーズに応えるため、前向きな成果と革新的な解決策に向けて取り組むことができるのです。

  1. 米国国務省 勇気ある女性賞(英文リンク)
    参考URL:Michelle Obama, U.S. Department of State Women of Courage Awards, March 11, 2009
    https://obamawhitehouse.archives.gov/realitycheck/the-press-office/remarks-first-lady-state-department-women-courage-awards
  2. 「コロナによる検診控えと乳がん死亡者数の関係、米国での分析結果が発表」
    参考URL:Robert Preidt and Ernie Mundell, “Pandemic Delays in Screening Mean More Breast Cancer Deaths Ahead: Study,” HealthDay, July 14, 2021(英文リンク)
    https://consumer.healthday.com/b-)7-14-pandemic-delays-in-screening-mean-more-breast-cancer-deaths-ahead-study-2653720781.html
    参考URL:日経BP BeyondHealth
    https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/news/overseas/00118/
  3. 「お願いだから乳がん検診を受けて」ピンクリボン月間
    参考URL:NHK, October 17, 2021
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211017/k10013308531000.html
  4. 2020年9月までのパンデミック最中の日本の男女別自殺傾向 (英文リンク)
    参考URL:Shuhei Nomura, Takayuki Kayashima, Daisuke Yoneoka, Yuta Tanoue, Akifumi Eguchi, Stuart Gilmore, Yumi Kawamura, Nahoko Narada, and Masahiro Hashizume, “Trends in suicide in Japan by gender during the COVID-19 pandemic, up to September 2020,” Psychiatry Research, Volume 295, January 2021, 113622
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0165178120332832
  5. フェムテックの展望:女性の未来を形作る技術(英文リンク)
    参考URL:“Femtech Outlook: The Technology Shaping the Future of Women’s Health,” CB Insights, May 29, 2021
    https://www.cbinsights.com/research/femtech-outlook-womens-health/
  6. フェムテックで変わる女性の健康へのアプローチ(英文リンク)
    参考URL:Katerina Mansour, “How femtech is shifting our approach to women’s health,” Early Metrics, March 8, 2022
    https://earlymetrics.com/rise-of-femtech-womens-health/
  7. 2022年4月より43歳未満の女性の不妊治療が保険適用に
    参考URL:厚生労働省 不妊治療に関する取組
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/funin-01.html
  8. 『FemTech Landscape』レポート(英文リンク)
    参考URL:Researched, authored, and illustrated by Dr. Brittany Barreto, PhD, Jessica Karr, Mia Farnham, Su Wern Khor, Mariana Keymolen, Sangeetha Ranadeeve, Kala Pham, Brianna Cochran, Alley Lyles, and Dr. Julie Hakim, MD, “FemTech Landscape” report, FemTech Focus and Coyote Ventures, July 2021
    https://femtechfocus.org/wp-content/uploads/2021/08/FemTech-Landscape-2021_v2-2.pdf

 

謝辞:活発な意見交換をさせていただいたfermata株式会社Lia Camargo氏、Healthtech Women Japan竹之下千尋氏に厚く御礼申し上げます。

fermata社についての詳細は、同社ウェブサイトhttps://hellofermata.com/pages/about-fermataをご覧ください。
Healthtech Women Japanについての詳細は、同団体ウェブサイトhttps://healthtechwomen.org/をご覧ください。

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岩下裕司日本における女性の健康
~フェムテックがウィメンズヘルスに果たす役割を考える~